正社員の有効求人倍率が過去最高!
深刻な労働力不足が続いています。2017年6月の有効求人倍率(全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す指標)は1.51倍となり、バブル期で最も高かった1990年7月の1.46倍を上回りました。また、正社員の有効求人倍率は1.01倍で2004年11月に統計を取り始めて以来最高となっています。有効求人倍率が1倍を超えているということは、求職に対して求人をする企業の数が多いということですから、労働者から見ると「売り手市場」ということになるわけです。
この有効求人倍率を業種別にみると、17.5%増えた宿泊・飲食サービス業や16.3%増えた製造業の伸びが目立っています。また、運輸・郵便業や教育・学習支援業も1割以上増えており、正社員の確保を急ぐ動きは広がりもみられます。なお、娯楽業は0.8%減り、卸売・小売業も0.2%増にとどまっています。
一方、6月の完全失業率(15歳以上の働く意思のある人のうち失業している人の割合)は2.8%となっておりますが、職種や年齢、勤務地などの条件で折り合わずに起きる「ミスマッチ失業率」は3%台前半とされていることから、現在は働く意思のある人なら誰でも働ける「完全雇用」状態にあるといえるのです。
この状況は労働者にとっては大変喜ばしいことだと思います。しかし、企業にとっては良いことばかりではありません。なぜなら、今後はますます人材の確保が難しくなることが予想されるからです。
大企業による“人材の囲い込み”戦略
このような状況に対して、大企業は次々と人材の囲い込みを行うようになっています。新聞等で報道されているものをいくつかご紹介します。
<大手クレジットカード会社>
クレディセゾンは9月、従業員の雇用形態を正社員に一本化する。パートタイムや嘱託などの区分をなくし、正社員と同じ給与体系や福利厚生などの待遇を適用する。約4100人のうち、パート社員ら約2200人が正社員化の対象。政府の働き方改革の柱の一つ「同一労働・同一賃金」を踏み込んで先取りし、人材確保につなげる。
<人材派遣会社>
パソナやヒューマンホールディングスなど人材派遣会社が相次ぎ派遣社員を無期雇用契約に切り替える。勤続年数5年超の有期雇用契約の社員は、2018年4月から無期雇用を会社側に申し入れることができるようになる。人手不足や働き方改革の加速で人材派遣需要が堅調ななか、貴重な人材を囲い込むことで競争力につなげる。
パソナは専門職として派遣する社員の対象職種を、17年度中に8職種から20職種に拡大する。来春に勤続年数が5年を超える対象職種の派遣社員は最大で約5千人。希望者は無期雇用契約に変更する。時給制から月給制となり、スキルに応じて昇給できる。すでに対象となる派遣社員への説明会を開始した。
<金融機関>
みずほフィナンシャルグループは、パート社員が課長や主任に昇進できるよう人事制度を見直す。2018年4月から仕事の能力が高く本人が希望する場合、勤続3年で期間の定めのない無期雇用に転換する。時給は正社員並みとし、賞与も支給する。政府の進める同一労働同一賃金などを先取りした働き方改革で優秀な人材確保につなげる。まずみずほFGと傘下のみずほ銀行、みずほ信託銀行で18年4月から先行実施する。勤続年数が3年を超えるパート社員は約7千人在籍する。年内に各人と個別に面談し、将来のキャリアプランや無期雇用に転換したいかなど、本人の希望を聞き取る。
このように人手不足が深刻化する中で、大企業は優秀な人材を囲い込む施策を次々と打ち出してきています。これに対して、中小企業はどのような戦略で臨むべきなのでしょうか?
中小企業は「再雇用制度」で人材を確保せよ
中小企業においては、大企業のような大盤振る舞いをすることはできません。ですから、中小企業は中小企業に合ったやり方で人材確保を行う必要があります。そこで、最近注目されているのが「再雇用制度」です。
再雇用制度とは、出産・育児・介護といったやむを得ない事情や、転職や起業、留学などのキャリアアップを理由に、一度退職した社員に職場復帰してもらう制度です。これまでに培った知識や経験・スキルを生かして再び活躍してもらおうというわけです。再雇用制度というと、定年退職後の社員を雇用するイメージが強いですが、現在は人手不足ということもあり、最近では若手・中堅人材向けに再雇用制度を導入する企業が増えています。
厚生労働省が行った再雇用制度についての調査(「出産・育児等を機に離職した女性の再就職等に係る調査研究事業」2014年度)によると、再雇用制度を設けている企業は全体で16.7%、企業規模別にみると従業員1001人以上では36.4%と高い数値になっています。また、「今後導入を検討している」も16.1%となっています。従業員100人以下の中小企業での導入はまだ15.2%と少ないですが、導入を検討中の企業は21.8%もありますので、今後は再雇用制度の導入が進むことが予想されます。
「再雇用制度」のメリットと課題
ここで企業が再雇用制度を導入するメリットについて確認しておきましょう。上述の厚生労働省の調査によると、「退前に培った業務経験を活かして働いてもらうことができる」78.7%、「不足した人材を確保することができる」60.2%、「会社への愛着を持った人を雇用することができる」50.9 %となっています。
しかし、一度退職した社員を再雇用することについては、以下のような課題も指摘されています。
■馴れ合いになってしまう
■現在いる社員とのバランス
■再雇用後のポジションや給与面などの待遇
■空白期間を昇進・昇格時にどのように考えるか?
■過去の経験では通用しないこともある
■以前のやり方への固執
■再雇用できるので安易に退職を考える者がでるのでは?
もちろん、こうした課題を解決するための制度設計は必要になりますが、労働力人口が減少し人材の確保が難しい時代において、コストをかけずに即戦力を採用することができる再雇用制度は、これからの中小企業にとって必要不可欠なものだと思われます。たとえば、妊娠・出産・育児・介護などの「やむを得ない事情」により退職した社員に対象者を限定すれば、再雇用制度は十分に導入できるのではないでしょうか?
「再雇用制度」導入に使える助成金
妊娠、出産、育児または介護を理由として退職した者が、就業が可能になったときに復職できる再雇用制度を導入、対象となる者を採用した事業主には、助成金が支給されます。それが、「両立支援助成金(再雇用者評価処遇コース)」です。
この助成金の支給額は、再雇用1人目については38万円、再雇用2~5人目については28.5万円(中小企業、生産性要件を満たしていない場合)になります。この額を継続雇用6か月後、継続雇用1年後の2回に分けて半額ずつ支給されます。
この助成金を受給するためのポイントは、次の通りです。
①対象者が妊娠、出産、育児または介護を理由とした退職者であること。
②退職前の勤務実績等を評価し、処遇の決定に反映させることを明記した再雇用制度を導入すること。
③離職後1年以上経過している対象者を再雇用し、無期雇用者として6ヵ月以上継続雇用すること。
(有期契約で再雇用した場合であっても、その後に無期雇用を締結して6ヵ月以上継続雇用すればOK)
実務上のポイントとしては、対象者の退職理由が「妊娠、出産、育児、介護」であること、本人が再雇用されることを希望していることを明確にするための書類を整備することです。そのため、この助成金を活用するためには、対象となる社員が退職時または退職後に再雇用希望の申し出ができる書式を整備しておく必要があります。また、その者が就労可能になった場合には、速やかに人事担当部署に採用(再雇用)希望時期を申し出るなどのルールも整備しておくことが重要になります。
まとめ
本稿では、「人手不足時代における中小企業の人材確保戦略」ということで、「再雇用制度」についてお伝えをしてきました。労働力人口が減少し人材を確保するのが難しい時代においては、一度退職した社員であっても優秀な人材であれば再雇用して戦力化を検討することは、中小企業の人材確保戦略として大変重要なことだと思います。
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