わが国における女性の就業に関する現状と課題
労働力人口の減少する中、企業においても女性社員をこれまで以上に積極的に活用しようとする機運が高まっています。しかし、わが国における女性の就業に関しては、まだまだ解決すべき問題が山積しています。
女性の就業率(15~64歳)は上昇を続けているものの、就業を希望しながらも働いていない女性は約300万人に上っています。特に、第一子出産を機に約6割の女性が離職するなど、出産・育児を理由に職場を離れてしまう女性は依然として多いのが現状なのです。
その後、子育てがひと段落して再就職をした場合でも、パート社員等で働く場合が多く、女性雇用者における非正規社員の割合は約6割近くになっています。
さらに、わが国における特有な課題として、管理的立場にある女性の割合が11.3%(平成26年)と国際的に見て低いことが指摘されているのです。
以上のように、わが国においては労働市場での女性の活躍が求められながらも、社会システムや文化的な背景などから、働く現場において女性の力が十分に発揮できているとはいえない状況にあります。
女性活躍推進法の施行
このような状況を踏まえて、女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するために、平成28年4月より『女性の職業生活における活躍の推進に関する法律』(以下、「女性活躍推進法」といいます)が施行されました。
この法律は、男女共同参画社会基本法の理念に則り、女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進し、豊かで活力ある社会を実現させることを目的としています。
女性活躍推進法では、常時使用する労働者の数が301人以上の民間事業主(一般事業主)に、以下の3つのことを義務づけています。
①自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
②状況把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定・社内周知・公表・届出
③女性の活躍に関する情報公表
また、常時雇用する労働者数が300人以下の事業主であっても、上記は努力義務とされています。
労働者301人以上の民間事業主が実施すべき事項
ここでは、常時雇用する労働者数が301人以上の民間事業主(一般事業主)が、女性活躍推進法によって義務づけられている事項について、具体的に確認してみましょう。
<自社の女性活躍に関する課題分析>
女性の活躍に向けた課題の中で、多くの企業に該当するものとして、「女性の採用の少なさ」「第一子妊娠・出産前後の就業継続の困難さ」「男女を通じた長時間労働」「女性管理職の登用」の問題があげられます。
そこで、これらの課題に関わる状況を把握するために、必ず把握すべき項目(基礎項目)として、以下の4つが定められています。
①採用した労働者に占める女性労働者の割合
②男女の平均勤続年数の差異
③労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
④管理職に占める女性労働者の割合
また、女性活躍の現状をさらに詳しく把握するために、上記4つの基礎項目以外にも、各社の実情に応じて把握することが効果的と考えられる「選択項目」も定められています。これらの項目を把握した上で、自社における女性活躍に
関する課題を分析しなければなりません。
<状況把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定・社内通知・公表・届出>
現状把握・課題分析の結果を踏まえて、女性の活躍に向けた以下の取り組みを行わなければなりません。
①行動計画の策定
②行動計画の労働者への周知
③行動計画の外部への公表
④行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
なお、行動計画には、「計画期間」「数値目標」「取組内容」「取組の実施時期」を必ず盛り込まなければならないことになってします。
<女性の活躍に関する情報公表>
自社の女性の活躍に関する情報を公表します。公表すべき項目は、状況把握において「選択項目」とされた事項の他、いくつか定められています。その中から、自社の経営戦略に基づき適切であると考える項目を1つ以上選んで公表する必要があります。
公表の方法としては、自社のホームページ等への掲載の他、厚生労働省が運営する「女性の活躍・両立支援総合サイト」に掲載することでも構いません。自社の女性の活躍に関する情報を公表することで、優秀な人材の確保と企業の競争力向上につなげることができます。
<取組の実施・効果の測定>
策定した行動計画について、数値目標の達成状況や、取組の実施状況を定期的に点検・評価することが推奨されています。すなわち、女性の活躍推進においても、計画(Plan)、実施(Do)、点検(Check)、改善(Act)のマネジメントサイクルに廻すことによって、改善活動を継続することが求められているのです。
女性活躍推進に積極的な企業に与えられる「えるぼし認定」
行動計画の策定・策定した旨の届出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な企業は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定(えるぼし認定)を受けることができます。
この「えるぼし認定」を取得するための評価項目は以下の5つとなっており、満たした項目数に応じて3段階の認定基準があります。
<えるぼしの認定基準>
①採用(男女別の採用における競争倍率が同程度であること)
②継続就業(女性労働者の平均勤続年数が男性に比べて一定割合以上であること)
③労働時間等の働き方(時間外および休日労働の合計時間数が各月ことに45時間未満であること)
④管理職比率(管理職に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値以上であること)
⑤多様なキャリアコース(非正規社員の正社員転換等の所定項目についての実績を有すること)
なお、「えるぼし認定」を取得することで、企業にとっては以下のメリットがあります。
・厚生労働大臣が定める認定マークを商品や広告に付すことができ、女性活躍推進企業であることをPRできる
・認定企業であることをPRすることで、優秀な人材の確保や企業イメージの向上を図ることができる
「女性活躍推進」に使える助成金
女性の活躍推進に取り組む事業主を支援するための助成金として、「両立支援助成金(女性活躍加速化コース)」があります。
この助成金は、女性活躍推進法に基づき、自社の女性の活躍に関する「数値目標」や「数値目標」の達成に向けた取組内容等を盛り込んだ行動計画を策定し、行動計画に沿った取組を実施して「取組目標」を達成した事業主及び「数値目標」を達成した事業主に対して支給されます。ただし、本助成金は原則として、常時雇用する労働者が300人以下の中小企業が対象となります。(301人以上の会社は法律によって女性活躍推進が義務づけられていますので、助成金は支給されません)
本助成金は、目標達成の段階に応じて以下の2つのコースに分かれています。
①加速化Aコース(数値目標の達成に向けた取組目標を達成した場合:28.5万円)
②加速化Nコース(取組目標を達成した上で、数値目標を達成した場合:28.5万円)
この助成金を受給するためのポイントは、次の通りです。
・自社の女性労働者の活躍状況の把握を行い、その活躍に向けた課題を分析すること
・問題解決に相応しい数値目標と取組目標を盛り込んだ行動計画の策定・社内周知・外部公表を行うこと
・自社の女性の活躍に関する情報の公表を行うこと
・行動計画を策定した旨を労働局に届出をすること
上記の内容をご覧いただければわかると思いますが、これらはすべて法律で301人以上の一般事業主に義務づけられいることばかりです。つまり、この助成金は300人未満の企業であっても、女性活躍推進に取り組む会社であれば、国としても積極的に支援するという目的で支給されるものなのです。
まとめ
労働力人口が減少する現状においては、「人材の確保」が非常に重要な経営課題です。その中でも、女性の活躍推進というのは、すべての企業において検討すべきテーマになっています。また、女性活躍推進法という法律においては、企業に対して「現状把握」や「課題分析」を求めていることも新しい動きとして注目しておくべきでしょう。これは人事労務管理の領域においても「数値管理」や「データ分析」が求められるようになっていることを意味しています。
こうした国の労働施策の方向性や人事労務管理のトレンドを踏まえて、女性の活躍推進をきっかけにして、御社でも「人事労務管理のPDCAサイクル」を廻せる体制を整備することを検討してみて下さい。